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FAIRY TALES 3 
ありがとう
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ヨハン
ロナルド
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1ロナルド
2ギルギレ山
3胸の中で
4マリア
5行けるうち
6おぼえている
7片付け
8わすれないで
9いつまでも
10家
11しゅっぱつ
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ありがとう 木村達也   
ロナルドとヨハンおじいさん
1 ロナルド

 アレミデむら野原のはらあきもふかまり、茶色ちゃいろくさがゆうぐれのつめたいかぜにふかれていました。さむいふゆがすぐそこまでせまっています。うさぎのロナルドは、野原のはらすみにあるあなぐらのまえで、あつめてきたくさ整理せいりして、冬支度ふゆじたくをしていました。そのちいさなあなぐらがロナルドのいえです。
「ありがとう」 とつぜん、やぎのヨハンおじいさんがちかづいてきて、そういました。いきなりはなしかけられたロナルドは、それがなんのことかわかりませんでした。
「とつぜんどうしたんだい?ヨハンおじいさん」
「わしにたべもののくさをよくわけてくれただろう。おれいをおうとおもってな」
「おれいならそのときにきいたよ」
「いつもすまんな」
「こまっていれば、わかいおれがたすけるのがとうぜんのことだよ。それに、くさのあつめかたやほしかたや整理せいりのしかたをおしえてくれたのは、ヨハンおじいさんじゃないか」
「いや、としよりをいたわることは、おもっていてもなかなかできないことさ」 
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2 ギルギレさん

2 ギルギレさん
「おれもそのうちとしをとるよ」
「ああ、しかし、足腰あしこしがよわってたべものをあつめるにもこまるありさまさ」
「だれでもいつかはそうなるよ」
「それでまだけるうちに、ギルギレさんにいこうとおもってな」 ヨハンおじいさんのはなしをきいて、ロナルドの顔色かおいろがすこしわりました。野原のはらのかれくさがざわざわとおとてます。
 ロナルドのみみをつめたいかぜがふきぬけます。ロナルドはかぜるほうをむきました。天上てんじょうにとどくかとおもうほどたか神々こうごうしいやまがあります。
「そうか…、ギルギレさんにいくのか…」 ロナルドはさびそうにそういました。
「それよりきみにあまり親切しんせつにしてやれなかったな」 ヨハンおじいさんは、とつぜんおもしたようにいました。
「いや、そんなことはなかった。いつも親切しんせつだったよ。でも、ぼくがちいさいころ、ヨハンおじいさんの大切たいせつなほしくさをぬすんでべたときは、ひどくしかられたなあ」
「ああ、そんなこともあったな」
わかいころのヨハンおじいさんがおこったときは、こわかったなあ。おれはひとりぼっちではらぺこだったから…。」  
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3 むねなか

3 むねなか
事情じじょうらずにひどくおこってしまって、すまなかったな」
「どんな事情じじょうがあろうと、ぬすみはいけないことだよ。おじいさんのおかげでがさめた。いくらまずしくても、わるいことをせずに、むねをはって堂々どうどうきたいとおもったよ」
「そうか、それはそのほうがいいさ」
「それからはずいぶんとおじいさんのいえべさせてもらったりもした。おじいさんのことは、いつまでもこのむねなかきているよ」
「そうか。わしはきみむねなかきているのか…」 ヨハンおじいさんは、そうつぶやきました。
「それじゃあな。元気げんきで」 ヨハンおじいさんは、そうわかれをつげると、ロナルドのいえまえからりました。ロナルドは、そのうしろすがたをいつまでもみおくっていました。ロナルドにつめたいかぜがふきけます。かぜはかれくさをゆらして、野原のはらをかけぬけました。
 アレミデむら中央ちゅうおうをながれるユルゾがわは、夕陽ゆうひ反射はんしゃしてきらきらとかがやいています。川原かわらにある茶色ちゃいろくさにふくかぜが、いっそうつめたくかんじられます。
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マリアとヨハンおじいさん
4 マリア

4 マリア
 うさぎのマリアは、かわうえおかにあるあなぐらのなかで、セーターをあんでいました。そのちいさなあなぐらが、マリアのいえです。ほのかなランプのひかりが、マリアをらしています。しずかなゆうぐれでした。マリアのいえのとびらをノックするおとこえます。
「はい、どなたですか?」
「わしじゃよ、ヨハンおじいさんだ」
「あら、ヨハンおじいさん」 マリアはとびらをあけてそとました。そとはつめたいかぜがふいています。
「ありがとう」 やぎのヨハンおじいさんは、とつぜんそういました。マリアは、なんのことかわかりません。
「とつぜんどうなさったの?ヨハンおじいさん」
「わしにあたたかいセーターや毛布もうふをわけてくれただろう。ちょっとおれいをおうとおもってな」
「おれいならそのときにききましてよ。だれかこまっていれば、たすけるのがとうぜんのことよ。それにセーターや毛布もうふのあみかたは、おじいさんにおしえていただいたものですわ」 
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5 けるうち

5 けるうち
「いや、としよりをいたわることは、おもっていてもなかなかできないことさ」
わたしもそのうちにとしをとりますわ」
手足てあしはよわくなってすぐにつかれてしまう。毛布もうふをあむにもこまるありさまさ」
「だれでもいつかはそうなりますわ」
「それで、まだけるうちにギルギレさんにいこうとおもってな」 ヨハンおじいさんのはなしをきいて、マリアの顔色かおいろがすこしわりました。ユルゾがわ水面すいめんがざわざわとなみだちます。
 マリアのみみをつめたいかぜがふきぬけました。マリアは、かぜるほうをむきました。ゆうぐれのなかで、天上てんじょうにとどくかとおもうほどたか神々こうごうしいやまが、夕陽ゆうひかんでいます。
「そう…、ギルギレさんにいくの…」 マリアはさびそうにそういました。
「それより、きみにあまり親切しんせつにしてやれなんだな」
「いいえ、おじいさんはいつも親切しんせつでしたわ」
「そうかな。たべものがすくないふゆに、なにももっていってやれなくて、すまなんだな」
「それは、おたがいさまですわ。ふゆはどこでもたべものがありません」
「こまったとき、たすけてやれなかったことが、になってな」 
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6 おぼえている

6 おぼえている
になさることありませんわ。おじいさんには、たべものをもらったり、くさのあつめかたや毛布もうふのあみかたをおしえてもらったり、十分じゅうぶんによくしてもらいました」
「そうか、そうってもらえて、よかった」
「セーターのあみかたをおしえてもらったときのことを、いまでもおぼえています。さむくてふるえていたわたしに、やさしくおしえてくださいましたね」
「そうか、いまでもおぼえているか…。それをきいてよかったよ」 ヨハンおじいさんは、そうちいさくつぶやきました。
「それじゃあな。元気げんきで」 ヨハンおじいさんは、そうわかれをつげると、マリアのいえまえからりました。マリアは、そのうしろすがたをいつまでもみおくっていました。 ユルゾがわ水面すいめんは、夕陽ゆうひかがやいて、しずかな波の音おとこえてきます。
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ヨハンおじいさんのたびのしたく
7 片付かたづ

7 片付かたづ
 かぜがしめりをおびてきて、あめがふりはじめました。ヨハンおじいさんは、家路いえじをいそぎました。アレミデむらおくにある小高こだかおかに、いえがあります。それはつくられたおしゃれないえでした。ヨハンおじいさんが、いっしょうけんめい自分じぶんつくったいえです。
「このいえともおわかれだなあ」 おじいさんはいえ片付かたづけをはじめました。コップにブラシにさらなどをたなにならべました。テーブルのうえ片付かたづけ、椅子いすをきれいにならべました。ちらばっていたふくをきれいに片付かたづけました。
「もっていくにもつをえらばないとなあ」 おじいさんは、もっていくにもつをえらびました。コップにブラシにさらをひとつずつえらびました。それから、ふく毛布もうふえらびました。あまりおおくはもっていけません。
「ひとつひとつにおもがあるけど、ぜんぶはもっていけないなあ」 おじいさんは、ほとんどのにもつとこのいえをおいていくのです。かなしくて、なみだそうになります。それでも、かないで後片付かたづけをつづけました。さむいよるでした。つめたいあめはアレミデむら一晩中ひとばんじゅうふりつづけました。
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ヨハンおじいさんの旅立たびだ
8 わすれないで

8 わすれないで
 つぎあさあめはやみました。アレミデむら朝陽あさひがのぼると、そらにじがかかりました。むらのはずれに、ヨハンおじいさんの姿すがたがあらわれました。おじいさんのっているのは、とおくキレギルさんつづみちです。おじいさんは、ちいさな荷車にぐるまえらんだにもつをのせて、いています。ヨハンおじいさんは、うしろをふりかえりました。ながくくらしたむらです。おわかれするのは、むねがしめつけられるようにさびしいものです。
ながい間、このむらにはせわになったなあ。いろいろなおもがある。むらではたらいたこと、はしったこと、わらったこと、かなしんだこと、いろいろあるなあ。さらばじゃ…」 そうわかれをつげて、むらようとしたとき、ヨハンおじいさんのうしろから、こえがしました。
「おじいさん…」 それは、ロナルドとマリアのこえでした。ロナルドとマリアは、いきをきらしてはしってきました。
「ヨハンおじいさん、どうしてもいってしまうのか?」
「このむらにいつまでもいたらいいじゃないの。わたしたちがいるわ」 ヨハンおじいさんは、だまってじっときいていました。
「ありがとう、ロナルド、マリア。こどものいないわしは、きみたちのことを、ほんとうのむすこやむすめのようにおもっていたよ。わしのことをわすれないでくれ」
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9 いつまでも

9 いつまでも
 「わすれたりしませんわ。わたし一緒いっしょに、いつまでもむらでくらしたらどうですか」
「ああ、おれと一緒いっしょに、いつまでもむらでくらしたらどうだい?」
「ありがとう。二人ふたりとも。わしはとてもうれしいよ。でも、わしはもうとしよりだ。それでじゃ…。わしはけるうちに、ぜひキルギレさんにいきたいとおもってな。わかいころから、毎日まいにちのようにあのやまいのったものじゃ。あのたかやまは、かみさまがすんでおられるというつたえじゃ。わしは、いつもわしを見守みまもってくださったかみさまのもとへいきたいのじゃ。かみさまのもとでしあわせにくらすつもりじゃ」
「そんな、おじいさん。ここにいてくれないか。それだけで、おれたちのささえになる」
「ありがとうよ。うれしいよ。でも、最後さいごにわしのわがままを、とおさせてくれないか。わしがいちどしたらきかないということを、っておるだろう?」 ヨハンおじいさんは、そううとふかくこうべをたれた。
「じゃあ、おじいさん、せめて、これをもっていってくれ。きっと頑固がんこうことをきかないとおもって、ほしくさをもってきた。おじいさんにならったやりかたであつめて、ほしたものだ。あんなたかやまうえに、たべものがあるかどうかわからないから…。にもつになるけど」
「ありがとうよ。わしにならったやりかたであつめてほしたものか…。最高さいこうのおくりものだよ」 ヨハンおじいさんはそううとあたまをさげた。
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10 いえ

10 いえ
「おじいさん。この毛布もうふとセーターをもっていって。やまうえのほうはきっとさむいにちがいないから…。ゆきがふっているにちがいないから…。おじいさんにならったあみかたでつくったのよ。体に気をつけてね…」 そううと、マリアはなみだがとまりませんでした。ロナルドもきました。大好だいすきだったおじいさんとのおわかれです。
「ロナルドとマリア。すてきなおくりものをありがとう。きみたちにあげられるものは、なにもないけど…。そうだ、おかうえにあるわしのいえんでくれないかな。だれもまないとれはててしまうから…」
「そんな、おじいさんの大切たいせついえを、とってしまうことはできませんわ。おじいさんがかえってくるまで、わたしがおそうじしておきますわ」
「いや、たのむ。んでくれないか」 おじいさんは、いちどすとききません。しばらく沈黙ちんもくつづきました。その沈黙ちんもくにたまりかねたように、とうとうロナルドがくちをひらきました。
「わかった、おじいさん。じゃあ、おじいさんがかえってくるまで、おれがむよ。どうせ、いちどすときかないんだから」
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11 しゅっぱつ

11 しゅっぱつ
「ありがとう、ロナルド。これでこころおきなくしゅっぱつできるよ。二人ふたり、こまったときはたすけあって、ちからをあわせてきていくんだよ。それから、きみたちはまだわかいから、キルギレさんてはいけないよ。このアレミデむらでとしをとって、もう十分じゅうぶんはたらいたとおもうときがくるまでな。もしこどもができたら、くさのあつめかたやほしかた、セーターや毛布もうふのあみかた、そしてわしのこともおしえてやってくれないか。わしはきみたちの心の中なかでずっときているとおもうと、それだけでしあわせだよ」
 そううと、ヨハンおじいさんは、荷車にぐるまいてたびかけました。むらのはずれから、ロナルドとマリアは、そのあとをみおくっていました。二人ふたりひとみからなみだがぽろぽろとこぼれてきます。二人ふたりをあわせてヨハンおじいさんの無事ぶじいのりしました。
 やまにはうつくしいにじがかかっています。そのむこうには、てんにもとどくかとおもうような神々こうごうしいキルギレさんが、朝陽あさひかがやいています。二人ふたりは、ヨハンおじいさんのうしろすがたがえなくなるまで、いつまでもいつまでもみおくっていました。
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