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もくじ
先頭へ
月の夜の涙
*
もくじ
月の
夜の
涙

元もくじへ 先頭へ
1 海のなかから
1B ケープ
2 海のなかで
2B 首飾り
3 海藻の森
3B 刃物貝
4 ボンダ
4B 息がくるしく
5 地上で
5B 月の夜の涙
6 地上にいきたい
6B 大真珠貝
7 真珠に手を
7B 地上にいけるかも
8 口をとじてしまう
8B 夜の海
9 息はある
9B 人食い
10 舟
10B 悪魔の貝
11 男の人
11B 見つけた
12 たすけて
12B 真珠をつかんだ
13 真珠をつけた
13B もう息が…
つぎへ 人物へ
先頭へ
月の
夜の
涙
1
海のなかから
青い
海にかこまれた
小さな
火山島で
少年ニケはくらしていた。ニケはこの
島の
漁師のこどもである。ある
日、ニケは
台の
形をした
岩にすわって
海を
見ていた。
岩の
下は
海藻のはえるあさい
海になっている。ニケは
海を
見るのが
好きだった。
天気のいい
日はいつも
岩の
上から
海を
見ていた。
「こんにちは、
青い
目の
小さな
男の
子」
とつぜん
海のなかから
声がした。ニケはおどろいて
海のなかを
見た。そこには
女の
子がうかんでいた。
金色の
長いかみの
毛が
波にゆらゆらとゆれている。
つぎへ もくじ
1B ケープ

「やあ、
金色の
長いかみの
女の
子。ぼくはニケだよ。きみは?」
「わたしはケープよ。ひなたぼっこはきもちがよさそうね、ニケ」
「うん、きもちがいいよ。ケープもここへきたら」
「
地上にはでることができないわ。かみの
毛が
海につかっていないと
息ができないの」
「ということは、
海にすむ
女の
子なんだ…」
つぎへ もくじ
2
海のなかで

「そうよ。こっちへこない?わたしのかみの
毛をくわえていれば
海のなかでも
息ができるわ」
「へえ、そうなんだ」
ニケは
海にとびこんだ。
「ほら」
ケープが
長いかみをニケの
顔の
前にだした。
あまくていい
香りがしてくる。
「
長いかみの
毛だね」
「そうね、
生まれたときから
腰のあたりまであったわ。このくらいの
長さがないと、
息がくるしくなるの。あなたの
銀の
首飾りも
長いわね」
「これはパパからの
贈り
物さ」
つぎへ もくじ
2B
首飾り

ニケは
首飾りをケープに
見せた。
長い
銀の
首飾りには
多くのクリップがついていて、そこに
貝殻や
真珠がとめられている。
「
自分の
好きな
貝や
宝石をつけることができるのさ」
ニケはそういうと、かみの
毛をぱくっと
口にくわえた。かみの
毛から
空気がおくられてきて、
海のなかでも
息ができた。
女の
子のかみの
毛は、
海水をとりこんで
空気をつくっているらしい。
「これなら
海にずっともぐれるね」
「じゃあ、いっしょにいきましょう」
へんなかっこうだったが、ニケはケープのかみの
毛をくわえてついていった。
つぎへ もくじ
3
海藻の
森
海のなかはあたたかかった。
長い
海藻が
森のようになってゆらゆらとゆれている。
「すごいね、
海藻の
森みたい…」
かみの
毛をくわえているので、とちゅうからうまく
話せなかった。
「きれいでしょう?」
海藻は
太陽の
光にきらきらとかがやいていた。
色とりどりの
小さな
魚がむれになっておよいでいる。
魚がむきをくるっとかえると、
体がきらっと
光った。
ニケとケープはあさい
海底までもぐっていった。このあたりまでなら
一人でももぐれると、ニケはおもった。しかし、
長い
時間はむりだ。
つぎへ もくじ
3B
刃物貝

ニケのまわりには
色とりどりのサンゴがあった。そのまわりを
小さな
魚がおよいでいる。
足元にきれいな
白い
二枚貝があった。
貝の
口先がきらきらとかがやいている。
「
先が
光っているきれいな
貝がいっぱいあるね」
「このあたりは
刃物貝の
海とよばれているわ。でも、
貝を
手にとってはだめよ。
先が
刃物のようになっていて、
手がきれてしまうわ」
「うわっ、そうなの?こわい
貝だね」
ニケは
手をひっこめた。
そのとき
大きな
魚がふたりにちかづいてきた。
「こんにちは、ケープ。そちらのお
方はどちらさまで…」
つぎへ もくじ
4 ボンダ

「こんにちは、ボンダ。こちらはニケ。
地上の
青い
目の
少年よ」
「
地上の…?あまりよそものを
海のなかへいれないほうがいいよ」
「あら、
彼はいい
子よ。にんげんのばあい、
純粋なこどもにしか
私のすがたは
見えないのよ」
「そんなもんですか…」
ボンダはそういうとゆっくりとおよいでいった。ニケはケープにたずねた。
「あれはだれ?」
「
海のなかまのボンダよ。
平和な
海の
世界がこわされないかしんぱいなのよ」
つぎへ もくじ
4B
息がくるしく

「へえ、そうなんだ…。ところで、ぼくはもう
息がくるしくなってきたよ」
「あまり
長い
時間はむりね。
地上にもどりましょう」
ケープはそういうと、
上にむかっておよぎはじめた。ニケもついていった。ゆっくりとおよいで、
海面にでた。
「ありがとう。たのしかったよ、ケープ」
「わたしも…。また、あの
岩の
上でニケを
見つけたらよぶわ」
ケープはそういうと
長いかみをきらめかせて、
海のなかへきえていった。
次の
日、ニケはまた
岩の
上にすわって
海を
見ていた。
太陽がきらきらとかがやいている。
大きな
魚が
波のあいだから
顔をだした。
つぎへ もくじ
5
地上で

「やあ、ニケ、ひなたぼっこかい?」
「こんにちは、ボンダ。ケープはいっしょじゃないの?」
「ケープはちょっとちょうしがわるいみたいなんだ…」
「どうかしたの?」
「うん、ちょっと
悩んでいるみたいなんだ。
前から
地上でくらしてみたいっていっていたから、それじゃないのかな。」
「
地上ではくらせないの?」
「うん、
地上では
息ができないから」
「そうか、ぼくが
海のなかで
息ができないのといっしょだね」
「じつは、
地上で
息ができるほうほうがあるんだ」
つぎへ もくじ
5B
月の
夜の
涙

5B
月の
夜の
涙
「へえ、どんな?」
「
月の
夜の
涙を
地上の
男の
子からおくられると、
地上で
息ができるといういいつたえがある」
「
月の
夜の
涙?」
「うん、
満月の
夜にふかい
海にすむ
大真珠貝があさい
海にでてくるんだ。
刃物貝がいっぱいいる
海だよ。その
大真珠貝の
真珠を
月の
夜の
涙というのさ。それをにんげんの
男の
子がとってきて
海にすむ
女の
子におくると、
地上で
息ができるようになるという
話だよ。ぼくがとってあげたいけど、にんげんじゃないといけないらしいんだ」
つぎへ もくじ
6
地上にいきたい

「どうして、ケープはその
話をぼくにしなかったのかなあ?」
「さあ、それはわからないけど…。
地上にいきたいって、
悩んでいるみたい。ニケを
海によんだのも、
地上の
暮らしにあこがれているからじゃあないのかなあ」
そんなことなら、はやくいってくれればよかったのにとニケはおもった。
今夜はちょうど
満月だ。さっきのボンダの
話は
刃物貝の
海のことにちがいない。あのくらいなら、
息つぎをしないでもなんとかもぐれるかもしれない。もちろん
長い
時間はむりだが、すぐにういてくればだいじょうぶだとおもった。
夜がきた。
大きなまるい
月が
空にでた。
満月だ。くらやみから
波の
音がきこえてくる。
夜の
海はこわかった。
海を
見ると、
大きな
怪物にのみこまれてしまいそうなぶきみなかんじがする。
つぎへ もくじ
6B
大真珠貝

ニケは
大きく
息をすってから、おもいきってとびこんだ。
夜の
海はひるまとちがってぶきみだった。やみに
海藻がゆらゆらゆらめいている。ニケはいそいだ。はやくしないと
息がつづかない。はやく
大真珠貝を
見つけ、
真珠をとってこなければならない。
夜の
海の
底にぼんやりかがやいているひときわ
大きな
貝があった。
「きっと、あれにちがいない」
ニケはおおいそぎで、もぐっていった。
息のつづくうちにたどりつかないと、かえり
道もはんぶんのこっているのだ。とちゅうで
息がつづかなくなって、もどれなくなったらいけない。
つぎへ もくじ
7
真珠に
手を

ニケは
大真珠貝に
手をのばした。
貝は
口をひらいていた。それは、ニケがまるごとはいりそうな
大きな
貝だった。まんなかに
大きな
真珠がかがやいている。それは
見たこともないような
大きさで、くらい
夜の
海に
白くかがやいていた。この
真珠をかみかざりにつけて、ケープのかみにかざったらどんなにきれいだろうかと、ニケはおもった。ニケはいそいで
真珠に
手をのばした。もう
息がくるしくなってきた。
そのころ、ボンダはケープの
家におみまいにいっていた。
「ケープ、だいじょうぶかい?」
「ええ、だいじょうぶよ」
つぎへ もくじ
7B
地上にいけるかも

「きょうはニケとあそべなかったね」
「そうね、ちょうしがわるいからしかたがないわ。いまごろなにしているのかしら」
「ひょっとして、
海にもぐっているかもしれない」
ボンダがそういうとケープの
顔が
青くなった。
「どうして?」
「
月の
夜の
涙の
話をしたんだ」
「えっ、どうして?」
「だって、
地上の
男の
子が
真珠をもってくれば、ケープが
地上にいけるかもしれないから…」
つぎへ もくじ
8
口をとじてしまう

8
口をとじてしまう
「それをニケに
話したの?」
「うん、だめだった?」
「だめよ。
月の
夜の
涙に
手をふれると、
貝が
口をとじてしまうのよ。そして、
貝に
食べられてしまうわ。しらないはずないでしょう?」
「うん、しっている。でも、もしかしたらとってこられるかもしれないとおもって…。とってこられなくても、あいつはよそものだ。ぼくはあいつのことが
好きじゃない…」
「だいじな
人をあぶない
目にあわすわけにはいかないから、なにも
話さなかったのよ」
「でも、ぼくはケープがだいじだから…」
「ばかね、きらいよ、ボンダ。ニケをたすけにいくわ」
つぎへ もくじ
8B
夜の
海

ケープは
夜の
海におよぎだした。ボンダはケープにきらわれたショックで、そこからうごくことができなかった。
夜の
海はくらくてぶきみである。どんな
敵がおそってくるやもしれなかった。ケープはまわりを
見ながらおよいでいった。
刃物貝の
海が
見えてきた。ぼんやりと
光る
大きな
貝がある。いそいで、
貝にちかづいていった。
貝のちかくに
人がいるようである。ニケだ。
手をはさまれて、
足がうえのほうにういている。
「ニケ、だいじょうぶ」
ニケは
目をすこしひらいた。
つぎへ もくじ
9
息はある

9
息はある
どうやらまだ
息はあるようだ。しかし、はやくたすけないと
命があぶない。ケープはニケをひっぱったが、
手ははずれなかった。
大真珠貝は、
真珠の
魅力で
人をひきつけ、つかまえて
食べている
悪魔の
貝であった。
月の
夜の
涙とは、なくなった
人の
涙なのだ。ここまで
大きくなるのになんにん
食べたかわからなかった。
このままにしておけば、ニケは
息たえてしまう。ケープは
自分のかみの
毛をニケにくわえさせた。ニケのひとみが
大きくひらいた。そして
大きく
息をすいこんだ。しばらく、ぜいぜいいいながらすいこんでいた。
「だいじょうぶ?ニケ」
「ああ、あぶなかった。ありがとうケープ、
死ぬところだったよ」
つぎへ もくじ
9B
人食い

「わたしのために
真珠をとろうとしたの?」
「そうだけど、しっぱいした。こんなにはやく
口がしまるとはおもわなかったよ」
「ボンダにきいたのね。
人食い
貝だとはいわなかったそうね」
「いわなくてもわかっていたさ。
真珠をとろうとしているのだもの。ぎゃくに
食われるかもしれないのはあたりまえのことさ」 ニケはそうこたえた。
頭の
上が、にわかにさわがしくなった。
「どうしたの?なにかきこえる?」
つぎへ もくじ
10
舟

「どうやら、だれかがニケをさがしているようよ。ニケをよぶ
声と
櫂の
音が
海のなかへつたわってくるわ」
「すごい、
海のなかで
小さな
声がきこえるんだね。きっとパパが
舟でぼくをさがしているんだとおもう。いつも
台の
形の
岩のちかくであそんでいるから」
ニケの
声はだんだん
力がよわくなってきた。ケープのかみの
毛から
空気がおくられてくるとはいえ、
長いあいだ
海につかっているのはくるしいのだ。
地上で
息をするのとはわけがちがう。
「
大人ならきっと
貝ごとニケをひきあげられるわ。でもどうやってしらせればいいのかしら…」
つぎへ もくじ
10B
悪魔の
貝

ケープが
海の
上にたすけをよびにいけば、ニケはまったく
息ができなくなってしまう。ケープのかみの
毛からくる
空気で
息をしているのだ。かといって、ここにいてもいずれは
息がくるしくなる。よわってくると、
悪魔の
貝に
食べられてしまうかもしれない。ケープはどうしたらいいかこまってしまった。
舟をこぐ
櫂の
音がとおくなっていく。はやくなんとかしないと、チャンスをのがしてしまう。
ケープは
刃物貝を
手にとった。
目をとじ、
貝を
胸の
前にもってきていのった。
「
海の
神様、わたしとニケをおまもりください」
ケープは
目をひらけると、
刃物貝でかみの
毛をきった。かみの
毛のはんぶんはニケがくわえていた。ケープはニケから
首飾りをはずした。そして、ニケからはなれてふわりとうきあがった。
つぎへ もくじ
11
男の
人

いそがなければならない。かみの
毛はんぶんだけでは、ニケもケープもそう
長くはもたない。ケープは
舟にむかっていそいだ。すぐに
息がくるしくなってきた。やっとのことで
海面から
顔をだした。
小さな
舟の
上にはおおがらのたくましい
男の
人がいた。ケープはニケの
長い
銀の
首飾りを
海面にだしてふった。
「あれは、ニケの
銀の
首飾り…。まぼろしか、いや、もしかして…」
男の
人は
大きくうなずいて
海にとびこんだ。ケープは
首飾りをひらひらさせながらいそいで
海にもぐっていった。
男の
人があとをついてきた。ケープはだんだん
意識がとおくなってきて、
気をうしないそうだった。かみの
毛がはんぶんないので、
息がくるしいのだ。
つぎへ もくじ
11B
見つけた
男の
人は
大きな
貝とニケを
見つけたようだった。ニケと
貝をかかえて
海の
上におよいでいった。ケープはそれを
見て
安心したようにほほえんだ。ケープは
意識がとおのいて
海の
底にしずんでいった。ニケは
男の
人にひきあげられていった。
大真珠貝はきけんをかんじたのかとちゅうではずれて
海にしずんでいった。
ニケは
舟の
上で
息をふきかえした。
「ニケ、だいじょうぶか?」
「ああ、パパ。だいじょうぶだよ」
「なぜか、
銀の
首飾りが
見えた。ニケは
海の
魔物にさそわれて
海にしずんだのか?」
つぎへ もくじ
12 たすけて

「ちがうよ、パパ。
海の
世界の
人がぼくをたすけてくれたんだよ。こんどはぼくがたすけてあげなくっちゃ」
「ふかいりはだめだよ。
海の
底の
世界は、わたしたちとはべつの
世界だよ」
「わかっているよ、パパ。でも、こまっている
人をみすてるわけにはいかないよ。ぼくはほこり
高い
漁師のこどもだよ」
ニケはそういうと
海のなかにとびこんだ。
体はもうへとへとにつかれていた。おおいそぎで
海の
底にむかっておよいだ。
気をうしなったケープがよこたわっていた。よこには
大真珠貝が
口をひらけている。
「ケープ、まっていてね。さっき
月の
夜の
涙をさわったときに
気がついたことがあるんだ。」
つぎへ もくじ
12B
真珠をつかんだ

ニケはそういうと、
刃物貝を
左手にもって、
右手を
真珠にのばした。ニケの
右手が
真珠にさわったとき、
大真珠貝の
口がとじた。しかし、
大真珠貝の
口は
刃物貝をはさんでとまった。はさんだのはニケが
左手にもっていた
刃物貝だった。ニケは
左手で
大真珠貝の
口をとめると、
右手で
月の
夜の
涙とよばれる
真珠をつかんだ。
「やはり
真珠から
風をかんじる」
ニケは
口のなかに
真珠をいれた。
真珠から
空気がでてきて
息をすることができた。どうやらこのふしぎな
真珠はにんげんがさわると
空気をつくるようになるらしい。それに
海水につかっていなくても
空気をつくれるようだ。
つぎへ もくじ
13
真珠をつけた

ニケはケープの
手にある
銀の
首飾りのクリップに
真珠をつけた。そしてケープの
頭に
二重にまいた。
長い
首飾りは、うつくしいかみ
飾りとなってかがやいた。 すると、ケープの
金色のかみが
真珠のまわりで
波をうちはじめた。それは
風になびく
金色の
草原のようなふしぎな
光景だった。ケープはうっすらと
目をあけた。
月の
夜の
涙がつくる
空気をかみからすいこんで、
意識がもどってきたようだ。ニケはケープの
手をにぎっていった。
つぎへ もくじ
13B もう
息が…

「ケープ、ぼくをたすけてくれてありがとう。その
真珠は
空気をつくるみたいだ。きっと
地上でもつかえるよ。ぼくはもう
息がつづかないから
海の
上にもどるね…」
「そう…、たすけてくれたの、ありがとうニケ。またあいにいくね」
ニケはケープの
手を
離してうきあがった。ひとときのおわかれだった。ニケの
目にもケープの
目にも
涙があふれた。ケープの
金色のかみに、
月の
夜の
涙とよばれる
真珠がうつくしくかがやいた。
もくじ
「月の夜」にもどる
つぎの話へ 先頭に